物語の多くは、主人公の他に何人かのキャラクターが登場します。
主人公は自分に関わる登場人物達とのやりとりを通して、問題に出会ったり、その問題を解決したり、悩んだり成長したりします。
特に、主人公の他にもう一人重要なポジションにある人物がいて、その二人のやりとりがストーリーの柱となるような物語も少なくありません。
例えば、アンパンマンはバイキンマンという敵対関係のキャラクターがいるからこその物語ですし、スポーツマンガでは主人公と競争関係であるライバルが、もう一人の主人公として話に色を添えます。シャーロックホームズとワトソンは協力関係といったところでしょうか。
今回、「二人の主人公」と題して、主要人物二人を決めてから、その二人の物語を考えてもらいました。
すると、こちらの思っている以上に素晴らしい作品がいくつも生まれましたので、その中のひとつを紹介したいと思います。
中学2年生の女の子の作った物語です。
さて、主人公ともう一人との関係は、どのような関係でしょうか?
『赤色の曲線』
(中二 女子)
筆が動く。こんな貧弱な手からこんなにも美しい曲線を描くことができるんだと僕は思った。キャンバスに描かれた赤は、母が大切に育てていた椿の花と同じ上品さをはなっていた。
自分の赤毛は大嫌いだが、赤色は大好きだ。お母さんの口紅を勝手に持ち出し、鏡を見ながら自分の唇に塗ったことだってあった。しばらく赤の魅力に溺れていたが、僕の顔には驚くほど不釣り合いだった。赤の魅力が薄れる前に、僕はティッシュで強くふきとった。
今朝、絵を描いていると、幸せをもたらす青い鳥と、美しい栗色の髪を持った少女が僕の景色に映った。やわらかく巻かれた髪は腰まであり、日に当たって金色に光っていた。僕の髪もこの色だったら良かったのに。自分の赤毛をひどく恨んだ。
「すみません。お絵かきのじゃまをしてしまって。初めて青い鳥を見たものですからつい追いかけてしまったんです。」
女性らしい声と上品な言葉遣いは彼女によく似合っていた。
きっとあのお屋敷のお嬢様なのだろう。白いフリルのついたワンピースの生地はずいぶんと高価なものに見えた。真ん中につけられているリボンは実に美しい赤色だった。
「全然大丈夫ですよ。ちょうど休んでいたところです。青い鳥、珍しいですよね。僕も初めて見ました。」
矯正が見えないように口を閉じてほほえんだ。青い鳥はいなくなっていた。
「よろしければ描いている絵を見せて頂けませんか。何回かあなたがここで絵を描いている姿を見ました。どんな作品か気になりまして……。」
笑顔も上品だ。僕は首を縦にふった。
彼女は僕の横まで来て絵をのぞき込んだ。
「ずいぶんと美しい絵を描かれているのですね。」
そう言う彼女の声に、嘘は感じられなかった。
心の底から「美しい」と思っているんだ。
彼女の発した一言は、僕にとってものすごくうれしいものだった。
長い時間、彼女は僕の絵を見ていた。真っ直ぐ見つめていた。その間僕はじっと彼女を見ていた。
日が沈み始め、彼女の髪がさっきのように金色に光っていなくても、僕には分かった。
「きっと彼女は亡き母の口紅がよく似合う」
なぜなら彼女の横顔は、母にそっくりだったのだから。
次の日もまたその次の日も、彼女は毎日僕の絵を見に来ては、僕が自信を持てれるような言葉をかけてくれた。
あの屋敷を描いてほしいの。彼女にそうお願いされたときは少し驚いたが、僕は喜んで筆を動かした。
美しい屋敷だった。白い壁は清潔さを感じられ、灰色の屋根まで高く伸びていた。庭には椿の花がたくさん咲いていた。
「ここは君の家なの?」
僕は彼女を見た。
「そうだよ。」
僕の質問に答えるとき、彼女はいつも優しくほほえんだ。
こんなにも彼女との思い出は、はっきりと思い出せるのに、あの美しい屋敷もこのキャンバスに残っているのに。彼女に完成した絵を渡すために屋敷へ足を運んだときにはもう何も残っていなかった。白い壁の屋敷も、灰色の屋根も。ただ、花だけはあのときと同じように残っていた。
花だけが残っている広場の真ん中には白い厚紙が置いてあった。
「完成した絵はここへ置いておいて下さい。さようなら。」
万年筆で書かれたやわらかくきれいな字は、間違いなく彼女のものだった。
僕は手紙を受け取り、屋敷が描かれている絵を母の口紅と一緒に置いた。
手紙の最後には冬の花の名前が書かれていた。
亡き母の名前だった。